もう機会損失なんてしていられない。BtoB企業向け/顧客・ユーザー事例の作り方

人間の想像力には、限界があります。大前提として共有している文脈がちょっと違うだけで盛大にすれ違うし、「こんなに一生懸命伝えているのに何で伝わらないんだろう……」と首を傾げたくなることもたくさんありますよね。

「伝わる」は、けっして当たり前のことではありません。むしろ「伝わらない」が、デフォルトだと思った方がよいです。

普通の生活のなか、友人・知人とのコミュニケーションですらそうなのですから、企業広報活動なんて「伝わらない」の最たるものだと思います。

サービスや商品のすばらしさ、将来性を勝手に感じとって、すぐさま飛びついてくれる人たちなんて……そうそういるもんじゃありません。

だからこそ相手がイメージしやすいよう、理解しやすいように「このサービス・商品を利用したらどうなるのか」「どんな使い方ができるのか」「これまで利用した人たちはどうだったのか」などを盛り込んで発信していくわけですよね。

今回はサービスや商品を展開していくうえで欠かせない「顧客・ユーザー事例」について書きたいと思います。

 

ところで、御社では「事例」をどのように発信してますか?

わたしはライターとして、さまざまな企業の顧客・ユーザー事例制作をお手伝いしています。ここ2年くらいでお問い合わせいただくことが増えてきたので、あらためて、「事例の作り方」「発信のしかた」について整理してみました。

 

この記事は、「もう事例なんて山ほど作り、効果検証してPDCAバンバン回してるわ!」という方には、おそらく基礎的すぎる内容です。また残念ながら、わたしはあまりBtoCビジネスに精通しておりません……。

BtoBのサービス・商品を手がけている企業で、「これから事例を作っていこうとしている」、「イマイチ自社の事例をうまく作れない」とお悩みの方はぜひ、このまま読み進めてください。

 

「何も発信してない」はゼロではなくマイナス。知らない間に機会損失しないために

前置きが長くなりますが、もうちょっとだけお付き合いください。

わたしは常々、「“もったいない”会社をなくしたい」と思っています。

これはわたしの持論ですが、よほどの悪意から生まれていたり、よこしまな気持ちで作られたビジネスでない限り、「社会の誰ひとりとして必要としていない」サービスや商品はないのではないでしょうか。

つまり、ビジネスとして成立するか否かは、9割くらいが「本当に必要としてくれる人たちに情報を届けられるか」にかかっているのではないか、と。(あくまで体感値をもとにした仮説です)

「いや、情報発信とかどんなにお金かけても意味ないでしょ。埋もれちゃって届かないでしょ」と思われている方も、もしかしたらいるかもしれません。

確かに、これほど情報があふれている時代。きちんと情報を伝えるのは至難の業です。ただし、「しかるべき情報発信をしていない」だけで、ものすごい機会損失が生じているのも事実。

しかしおそらく、その大幅なマイナスの状態に気づいていない方が大半なのではないかと思います。

なぜなら、「興味をもったのに情報がどこにも掲載されていない」「気になっているのに、サービス・商品のことがよくわからなかった」など、“  相手が必要とする情報が発信できていなかったから問い合わせされなかった  ” ことからくる損失は、可視化されないからです。

これでは、本当は必要とされているのに、その人たちと永遠に出会うことができません。

知らない間に、企業としてマイナスの状態になっている……そんなケースが多々あると感じています。

だからこそ、顧客・ユーザー事例などをはじめとした「適切な情報発信」を、強くおすすめしたいのです。

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参考記事)1対1の関係を築くように。「企業への共感」は、情報をオープンにすることからはじまる

 

顧客・ユーザー事例を通して伝えられること

さて、本題に入ります。主にBtoBビジネスを手がける企業を前提として、まずは、顧客・ユーザー事例を通して何が伝えられるのか整理してみました。この要素は、業界や規模に関係なく共通するところかと思います。

1)サービス・商品がもたらす価値
・導入・購入することで、どんな成果が見込めるのか
・どんな課題が解決できるのか
・導入・購入前と比べて、企業にはどんな変化が生じるのか

2)導入・購入されている実績
・どんな業界、どんな規模の会社で導入・購入されているのか
・顧客との関係性、距離感(すでに、複数の顧客から信頼されている)

3)企業のスタンスやポリシー
・企業としてどんな姿勢を大切にしているのか
・顧客に対してどのような対応をしているのか

4)出会いたいお客さま像
・これから先、どのようなお客さまと出会いたいのか

 

1と2はいわずもがなですが、私がとても大切だと思っているのは3と4です。

まず、3の「企業のスタンスやポリシー」。

いまの時代、よほど特別でオンリーワンのビジネスを展開している企業でない限り、サービスや商品の価値だけで差別化をはかるのは至難の業だといえます。

だからこそ、定量的な成果や実績だけではなく、担当者とどのような信頼関係を築いているのか、どんなことを大切にして行動しているのか、どんなポリシーをもった社員がいるのか……など、企業としての姿勢や社風などを伝えることが重要になります。

そして、4の「出会いたいお客さま像」。

これは3にも通じるのですが、すべての情報発信は企業としての意思表示でもあります。

どの会社でもかまわず取り上げるのではなく、「こういうお客さまにこそ役立ててもらえる」「こういう考え方に共感してくれる企業に買ってほしい」と、ベストな未来の出会いにつなげるために、しっかり意思表示をしたいところです。

 

顧客・ユーザー事例を作るために必要な準備

事例を通して「伝えられること」を、とにかく文章にすればいい……わけではありません。事例、と一口にいってもいろいろな作り方、発信の仕方があります。お客さまに片っ端から声をかける前に、要件を整理しておきましょう。

1)情報を届けたい相手を絞る

「広く万人に!」と、いいたくなるお気持ちはわかりますが、それは絶対にムリです。サービス・商品を導入(購入)してほしいお客さまは、どんな人たちか。できる限り絞っていきたいところです。

たとえば、対象が「個人経営の飲食店」なのか、「全国展開しているチェーン店」なのかで、適切な情報の発信の仕方はまるで変わってしまいます。

営業戦略と紐付けながら、「今後、どんなお客さまに使って(買って)ほしいのか」という視点で絞ることが多いですね。

 

2)着地点を決める

とりあえず認知を広げられればOKなのか、既存のお客さまに活用方法のバリエーションを伝えたいのか、新規顧客からの問い合わせがほしいのか。事例を発信することでどのような成果を得たいのか、明確にします。

これも、ゴールをどこに定めるかによって適切な発信方法が変わるためです。そして1と同様に、決してあれもこれもと欲張ってはいけません。着地点はどれかひとつ、が基本です。

 

3)発信方法を検討する

情報を届けたい相手と、決めた着地点、さらにサービス・商品特性などをふまえて、どの媒体でどのように発信するのかを決めます。

■ コーポレートサイト、サービスサイトのコンテンツとして掲載する
■ オウンドメディアやブログなどで発信する
■ Facebookなど、ソーシャルメディアで発信する
■ 一件ずつチラシをつくって配布する
■ 冊子形式の事例集をつくって配布する

 

紙媒体、Web、ソーシャルメディア、それぞれ特性があります。

たとえば、届けたい相手がほとんどWeb検索をしない人たちなら、どんなにWebサイトを更新しても意味がありません。

紙媒体も、チラシから冊子形式まで、シーンに応じてさまざまなバリエーションが考えられます。

営業が新規顧客訪問で使う、展示会で配布する、既存顧客向けに送付するなど、使い方はいろいろありますね。実際に「どう使うか」までイメージできていると、事例も作りやすくなります。

 

4)取材先を選定する

1〜3が固まったら、いざ肝心な取材先の選定へ。おつきあいがあればどこでもいい、というわけではありません。

「なぜその企業を取り上げるのか」、ポイントを抑えることが重要です。

■ 大手企業、業界内で名の通っている企業
■ サービス・商品によって理想的な成果が出ている企業
■ サービス・商品を通じてユニークな取り組みをしている企業
■ 先方担当者からの信頼が厚く、関係性が良好な企業
■ 会社として今後、営業に注力していきたい業種・業界

 

注意!)取材先選定は、“信頼関係”が大前提

ときどき「大手企業だから」など、企業規模などだけで取材先を選ばれる方がいますが、実は諸刃の刃でもあります。

こんなことを言うと元も子もないのですが、ライターとして取材に同席した際、「なぜこのサービスを選ばれたのですか?」という質問に対して、「あっ、コストが一番安かったからですね」とあっさり返され、その後の会話がまったく盛り上がらず……なんていう経験も、実はけっこうあったりします。

できれば信頼関係が構築できているお客さまを選んだ方が、結果的には「良い事例」になります。さらに、いざ取材にいったはいいけど使えない……なんていうことのないように、事例として出せるような成果が生まれているか、可能な範囲で事前ヒアリングができるとベストですね。

5)記事の形式、トンマナを決める

記事の形式も、さまざま考えられます。別にインタビューでなければならない、という決まりはありません。

■ 短いアンケートに答えてもらう(ソーシャルコンテンツ向)
■ しっかりとした一問一答のインタビュー(オーソドックスなもの)
■ 担当者との対談(信頼関係のアピールになる)
■ ドキュメンタリー形式(規模の大きなプロジェクト、ドラマチックな印象に)

 

伝えたい印象やサービス・商品の特性によって、トンマナを変えるのも効果的です。

たとえば親しみやすい空気を出したいのであれば、人と人とのエピソードを多めに使い、対談風でちょっとカジュアルな口調の記事にする。

むしろどのくらいの成果が出せたのか、きっぱりと数字で判断されることが圧倒的に多い……というサービス・商品なのであれば、きっちりファクトベースで記事を構成し、余計なエピソードは省く。

その事例記事を読んでくれた相手に、どんな印象を抱いてほしいのか。ここもできるだけ細かく、イメージできると良いです。

 

事例制作をアウトソースするときに注意すること

ここまで長々と書いてきましたが、実際は、事例制作を外部の制作会社やクリエイターに依頼するケースがほとんどかと思います。その際、届けたい人たちのイメージや着地点など、要件定義さえきちんとできていれば、アウトソースもスムーズに進むはずです。

1)なにがともあれ、基本の要件定義を共有する

「誰に届けたいのか」「どこに着地させたいのか」「どんな印象を与えたいのか」を、外注先にも共有する。まずはそこからです。このポイントがブレてしまうと、制作側も適切な提案やアウトプットができません。

2)取り上げてほしいポイントをあらかじめ伝える

「なぜその企業を事例として取り上げたいのか」「特に取り上げたいポイントはどこか」、あらかじめ制作側に伝えてください。取材前からポイントが絞れれば、インタビューを通じて情報をより深掘りすることができます。

逆に、特筆すべきポイントがないのであれば、取材先選定から見直したほうがいいかもしれません……!

 

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顧客・ユーザー事例の構成要素

最後に、基本となる「顧客・ユーザー事例」の構成要素を記載しておきますね。私はサービス・商品の特性に合わせて、必要なことを取捨選択して取材を組み立てています。

<基本情報>
– 取材先の事業内容、取り扱っているサービスや商品について、直近の動きなど

<導入前の課題>
– サービス・商品を導入する以前は、どのような企業課題があったのか
– その企業課題を解決するために、どのような対策を取ろうと考えたのか

<サービス・商品の選定>
– どのようにサービス・商品を検索したのか
– 該当サービス・商品との最初の接点はどこだったのか
– 社内でどのような比較検討をしたか
– 最終的な意思決定に至るまでの経緯
– 該当サービス・商品を導入することになった決め手

<導入プロセス>
– 導入プロセスにおいてどんな苦労があったか
(既存サービスからの切り替え、社内への浸透など)
– どのようにプロジェクトを進めたか
– 担当者との印象的なエピソードはあるか

<導入後の成果>
– 導入前の課題は解決できたか
– 導入後、どんな成果が得られたか
■定量面:業績UP/関連する数値の改善/工数削減/コスト削減 など
■定性面:労力やストレスの削減/働き方の変化/社内の変化 など

<全体を振り返った感想>
– 導入してよかったこと
– 現状の課題(新たに取り組みたいこと)
– 改善要望、今後期待すること

 

顧客・ユーザー事例の制作には「情報発信」以外のメリットもある

「こんなにいろいろ決めなければならないのか……」と、うんざりされている方もいるかもしれません。

が、しかし。事例を制作すると、情報発信ができる以外にも大きなメリットがあるんです。

事例をはじめて制作した企業の方がよくおっしゃるのは、「今まで聞けなかったお客さまの本音がヒアリングできた!」ということ。

普段からどんなにしっかりとお客さまに向き合っているつもりでも、取材というあらたまった席を設けてお話をうかがってみると、思わぬお話が引き出せることもあるようです。

これは社員の方のスキルやスタンスとは関係なく、単に“場”の問題。

取材という場になると、お客さま側は“話を聞かれるモード”のスイッチが入るので、細部まで振り返りながら語ってくれることが多いです。

ちなみにわたしが企業の方に代わって取材させていただくときは、「ご本人を目の前に言いづらいかもしれませんが……せっかくなので、ここは改善してほしい、もっとこうしてほしい、というご要望はありませんか?」と、ごくごく軽い調子で聞いたりします。

そうすると、面と向かって言えない本音がぽろりとこぼれることも。お客さまの本音がわかれば、それをサービス・商品の改善につなげることができますよね。

そんな副次的な効果もあるということを、ぜひ頭の片隅に置いていただけるとうれしいです。

 

いつしか気づかないうちに会社が“もったいない”状態におちいらないよう、「顧客・ユーザー事例」の発信、ぜひ検討してみてください。

 

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